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「みんな、大きいな」
練習風景を眺めながら、啓太は呟く。彼より小さい選手は、どこを探してもいなかった。
「そりゃあ、啓太より小さい人はおらんやろな」
「おい、それを言うなよ」
周りで同じように見学をしている生徒の邪魔にならないよう、啓太は小声で瀬高に返す。瀬高は、クックッと笑った。心なしか、周りの生徒も笑いを堪えているように思える。自意識過剰だろうかと、啓太は思った。
啓太らがしばらくバッティング練習を眺めていると、急に選手全員が動きを止めた。何だろうかと啓太は思ったが、その理由はすぐに判明した。グラウンドに監督が現れたのだ。立ち止まった彼らは一斉に頭を下げ、挨拶をした。
――かっこいいな……
揃えられた動きに、啓太は感動を覚えた。もし自分がこの野球部に入ったら、このようなことができるのだろうか。
だが……。
――チビがやっても、みっともないだけやろな。やっぱり、俺には無理や。野球なんて
啓太がそう決意したそのとき、先ほど彼らを案内してくれた牧山が走ってきた。どうしたのかと、啓太は牧山を見る。
「監督が来られたから、みんな立って。もうすぐここに来はるし、そしたら挨拶してな」
啓太らは返事をし、言われた通り立ち上がった。
しかし啓太は、もう帰ろうかと思っていた。瀬高には悪いが、やはり自分のようなチビに野球なんて無理だったのだ。監督に挨拶をしたら、すぐに帰ろう。そう思っていた。
そしてゆっくりと、監督と思われる青年がこちらに歩いてきた。
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