1565人が本棚に入れています
本棚に追加
少し苦しいが、それ以上に温かい。
恍惚とした表情になりそうになるのを振り払い、腕の中からもがく。
「わ、分かったのならば、さっさと離れんか」
この反応が素直で無いことは、百も承知しているが、どうしようも無いのだ。
真ん中一直線に来る気持ちの塊は、上っ面だけの好意から背を向け続けた我には、少し荷が重い。
「嫌だ」
「この……、調子に乗りおって……」
「そんなつもりは無いけど……。 エリスが、本当に嫌がるなら、すぐにでも離れるよ」
「…………。」
事実なだけに、何も言えない。
誰か、この男の口を止めてくれないだろうか?
こうなると、彼女に残された道は、開き直る他なくなる。
逆ギレという手も有るが、それも“今では”使えない。
「か、勝手にするがいい……」
「じゃあ、俺の気が済むまで」
……さて、あれから10分前程経った訳だが、未だに離れる様子は無かった。
互いの体温が相乗し、肌がうっすら汗ばみだす。
「(流石に、汗の臭いを嗅がれる訳には……)
アレク、これ以上は、その、色々とまずい……から、離してくれ」
今まで動きを見せなかった彼女が、乙女の心情的思考により、抵抗を試みる。
「はいはい」
あっさりと腕の力を抜くとは思ってなかったエリス。
気づいた時には、彼をはねのけるように離れてしまっていた。
体を包んでいた温もりの代わりに、肌寒い空気が襲ってくる。
最初のコメントを投稿しよう!