イヴ ～Eve～

１.出会い

　出会い、それは突然だった。色々とありがちなのかもしれないが、その日もいつも通りの何気ない１日に終始するものだと思っていた。

　傾斜のある床に階段のように座席が設置された、縦長で広さもそこそこな大学の講義室。

　一般的な高校の教室をやや大きくして緩い傾斜を付けだけ、大雑把に言えばそんな感じ。

　そしてその教台に立って白髪交じりの教授がプロジェクターからスクリーンに投影されている資料を指差し、マイクを片手にしゃがれた声で延々と単調な解説を続けている。

(……眠い)

　70人程度の学生が講義を聞いている中、中肉中背で黒とさして変わらないくらいに暗い茶髪、取り立てて特徴もない普通の青年が一人。

　彼は頬杖をつきながら目を細めている。

　春うらら。午後の最初の講義にこんなつまらない教養科目なんか取るんじゃなかったと青年は思った。

　試験が楽だからと聞いて取ったはいいがどうやらこの教授は出席確認が厳しいらしく(受講票を手配りする)、履修を取りやめようにもそう思ったときには既に履修登録期限を過ぎていた。

　つまり代返(※講義の出席を他者に偽ってもらうこと)は困難で、履修登録も取り消せない。