1.出会い

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  (まぁ、未修になるのもつまらないし……)  どうせなら今後のことも考えて、卒業に必要な般教(一般教養科目)の単位を稼いでおこうかと、その程度のヤル気で臨んでいる。  だからこそ眠気には敵わない。  しかしそれを差し置いても、元々この身体はヒトの三大欲求の一つに忠実なわけだった。 (でも講義もつまらないな……)  顎は手のひらからずり落ち頭はみるみる机に近付いていく。 『多くの学者が支持するアフリカ単一起源説ですが、これの根拠となるものとしてミトコンドリア・イヴという……』  その拡張された声でどうやら人類史についてのうんちくを語っているらしい。  自身の専門に近い分野で、教養科目とはいえ少し学術的な話なのだがそれも今は子守歌でしかなく、その声はまるで睡魔を呼び寄せる呪文を囁いているかのよう。 (ホント眠い……)  こう条件が重なっては仕方がないだろう。もとよりそれに逆らう気はあまりない。  瞼はみるみる重みを増していき、講義室にまで伝わっている生暖かい春の空気が意識を何処かへ押しやっていく。  
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