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「……うっ」
素直に眠気に身を委ねようと机に突っ伏す寸前、脇腹を小突く何かが惰眠突入の邪魔をした。
青年の隣りに座っているのは茶色いショートカットで軽い癖毛、クリクリっとした瞳が印象的な女の子。
そして明らかに作ったような不満顔でその娘が視線を投げてきていた。
「何さ?」
こちらが苦言を漏らすと、やはり作っていたのかすぐに破顔しチロリと舌を出す。
「寝ないで。アタシが寝るから、ノートテイクよろしくぅ」
「……それ横暴」
「あはっ、じょーだんじょーだん。寝てて良いよユート」
いやいや、結局何がしたかったのか。
ユート、彼女は青年をそう呼ぶ。私都優人<キサイチ ユウト>が青年の名前であり、やたら名字が呼びにくいために青年は大概名前で呼ばれることが多い。
そう、それだけ。別に彼女・橋津莉奈<ハシヅ リナ>と俺が特別な関係というわけではない。
まるで人懐っこい猫のような彼女とは同学科・同サークルの間柄なだけで、成り行きで同じ講義を履修することになっただけ。
「……はあ、眠気が失せた」
優人は上体を起こして軽く背伸びし、前を見て顔をしかめる。
「そうなの? あ、でもそろそろ講義終わるし、丁度良かったじゃない?」
そう言われて見ると、スクリーンを指してダラダラと言葉を紡いでいる教授の頭上、高い位置にある時計が講義開始から90分を迎えようとしていた。
随分と遅くに眠気のピークがきたものだ。
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