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瞼を開けるといつでも照明の眩しい白がある。
リノリウムに囲まれた部屋にその白は反射し、無機質で生活感の無いこの空間の静寂さと緊張感を際立たせる。
白、白、白、白……。
四方八方に何処までも続く、その気が狂いそうな色彩のせいで一目では広さも形もよくわからない空間。
そこが何かの施設であることは、かろうじてわかる。
それがその少女の毎日であり、全て。五感で感じるもの全てで形を成すものを“世界”と言うのならば、まさしく彼女にとってはそれだけが全てであり、世界だった。
それはまるで白い牢獄。
「……はあ、はあ」
切らした息、静寂を破る足音が空間に響く。
その異質な白い空間を、少女を腕の中に抱えた中年ほどの男が駆けていた。
見てくれはスポーツマンと名乗っても不自然ではないくらいで、体格も良く髪も短い。
しかしその身に纏う白衣が、その男が肉体派ではなくむしろその正反対の人間であることを示していた。
そしてその腕の中に、長い灰色の髪を揺らし澄んだ空のように透き通った氷蒼色<アイスブルー>の大きな瞳を持つ少女が収まっている。
その幼いながらも整った顔立ちはまるで作り物のようで、無表情なのも合わさって精巧な人形のようにも見える。
「はあ、はあ、はあ……」
随分と長く走っているのか白衣の男の息は酷く荒く、小皺が刻まれた額には沢山の汗が浮かぶ。
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