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するとすぐにピーッという高い電子音と共に防火用のシャッターが閉まり、分厚いそれが通路を遮断した。
「ひとまずはこれで……」
男は慣れない運動で乱れた呼吸をゆっくり整え、無表情で自分を見上げてきていた少女をまた抱き抱える。
そしてけたたましい警報音が鳴り響く中ゆっくり前へ進み、男の背丈と同じくらいの大きさの、銀行の金庫のようにやたら厳重そうな扉へ近付く。
「これだな」
男はそこでまた少女を下ろし、懐からカードキーを取り出してその扉の脇に設置されている電子機器を操作する。
「頼む、開いてくれ」
緊急時につきパスコードが書き換えられている可能性があるのだ。
祈るようにそう呟いて男は懐から取り出したカードキーを電子機器に通す。
「…………」
するとまるでその祈りを聞き入れたかのように、扉はゴトンと重々しい大きな音を立てて僅かに開く。
「はあ……」
安堵からか、男は大きく息を吐く。
警報ランプに赤く照らされた施設内に、外の眩しい光が扉の隙間から差し込む。
そこには少女の知らない世界が、本当の世界が広がっている。
男はゆっくり振り返り、そこに立ち無垢で無表情のまま見上げてくる少女へ視線を落とす。
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