1237人が本棚に入れています
本棚に追加
「……すまない」
悲痛そうに目を閉じ眉間に皺を寄せ、男は少女に言う。
非常に簡潔だが精一杯の謝罪の気持ちを男は言葉にしたつもりだが、しかし少女の表情は変わらない。
「…………」
聞こえていないのか、喋れないのか、言葉を知らないのか、感情を知らないのか。
少女は一切の反応を示さず、悲しそうにしている男をただ見上げる。
「許してくれとは言えない。だが、これが行動で示せるせめてもの……罪滅ぼしだ」
男は扉から見える世界に目をやる。
そこにあるのは少女の知らない“世界”。何か決意を秘めたかのように、男の目に静かに力が宿る。
そして少女に向き直り罪悪感と悲しみと痛みを堪えて微笑み、腰を屈めて少女へ手を伸ばす。
「……おいで。“外の世界”だ」
その言葉に応えるように、無表情のままだが少女はゆっくりとその白く小さな手を伸ばす。
男は壊れ物を扱うようにその小さな手を優しく取り、重い扉を押していく。
赤を打ち消す日の光が広がる。
警報音が鳴り響く、色の無い小さな世界から……二人は“逃げ出した”。
最初のコメントを投稿しよう!