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「どうして…?」
あんな現場を目撃したあたしに、
どうして先生から声をかけてくるの?
あたしはお腹の底のほうから沸き上がる不信感を抑えることができなかった。
それが、池谷先生にも伝わったようだった。
先生は相変わらず、ひとなつっこい笑顔を浮かべつつ、目は笑っていなかった。
「どうして…は、僕のいいたい言葉。
言いたいことがあれば、直接言えばいい。
変な噂をたてられるような行動はせずに。」
あたしのしていることが、先生にバレている。
あたしは、なんだか怖くなって、更に後ろに身を引いた。
先生の声も見た目も穏やかで優しげなのに、全てを見透かすような瞳が、たじろぐぐらいに真っ直ぐあたしを射抜く。
まるで、自分には何も後ろ暗いことも秘密もないとでも言いたげな迷いの感じられない先生の眼差しに、反論したい気持ちが喉まででかかったけど、
あたしはそれを飲み込んで、先生に背を向けた。
本棚の陰から出る。
「あ、飯田さん…。」
先生の声があたしを追いかけてきたけど、
あたしは構わず、図書室の出口を目指した。
図書室を出ようとしたあたしと入れ違いに、数人の女子生徒が入ってきた。
あたしをチラッと見て、それから、図書室に似合わない甲高い声をあげる。
「あー、池谷せんせ、こんなとこにいるぅ。」
「せんせえ、探してたんだよぉ。」
「君たち、静かに、場所をわきまえようね。」
女の子たちの黄色い声に、池谷先生が困ったように返事をするのを背中で聞きながら、
あたしは足早に図書室から出た。
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