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あの日。
何の希望も見いだせず、世捨て人みたいになっていたあたしを、
晴にぃは、施設から連れ出してくれた。
3年前のあの日から、
晴にぃはすでに、あたしの全てになっていたのかもしれない。
自分で自分をもてあまし、感情を動かすことも忘れた、人形みたいに無表情なあたしに、
晴にぃは他のひとがするように、詮索したり、変に気遣ったり、顔色を窺ったりしなかった。
淡々と、でもゆっくり丁寧に、
何故あたしを迎えに来たのかを説明してくれた。
あたしが晴にぃの話を、それなりに納得し、受け入れ、頷くまで、
黙って待っていてくれた。
晴にぃは、隠すことなく、自分の今の生活、
父方の親戚であること、
あたしも何度か会ったことのある、日下部の伯母にあたしのことを頼まれた、ということ。
そういう内容のことを、少しぶっきらぼうで、低い声、落ち着いた語り口で話した。
晴にぃの飾り気のない佇まいや、
干渉や踏み込むつもりのない距離感に、あたしは惹かれていたんだと思う。
気づいたら 晴にぃの車の助手席に座り、
あたしは鳥かごのような、閉ざされた空間から、外の世界へと、足を踏み出していた。
晴にぃは、あたしの恩人。
晴にぃは、あたしの誰よりも大切なひと。
そして、密かに、勝手に、愛している、特別なひと。
晴にぃのためなら、きっと、あたしは何でもできる。
だって、晴にぃがいなかったら、
あたしを快く引き受けてくれなかったら、
あたしはきっと、大人になっても、あの施設にいたかもしれない。
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