蒼子~その①

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あの日。 何の希望も見いだせず、世捨て人みたいになっていたあたしを、 晴にぃは、施設から連れ出してくれた。 3年前のあの日から、 晴にぃはすでに、あたしの全てになっていたのかもしれない。 自分で自分をもてあまし、感情を動かすことも忘れた、人形みたいに無表情なあたしに、 晴にぃは他のひとがするように、詮索したり、変に気遣ったり、顔色を窺ったりしなかった。 淡々と、でもゆっくり丁寧に、 何故あたしを迎えに来たのかを説明してくれた。 あたしが晴にぃの話を、それなりに納得し、受け入れ、頷くまで、 黙って待っていてくれた。 晴にぃは、隠すことなく、自分の今の生活、 父方の親戚であること、 あたしも何度か会ったことのある、日下部の伯母にあたしのことを頼まれた、ということ。 そういう内容のことを、少しぶっきらぼうで、低い声、落ち着いた語り口で話した。 晴にぃの飾り気のない佇まいや、 干渉や踏み込むつもりのない距離感に、あたしは惹かれていたんだと思う。 気づいたら 晴にぃの車の助手席に座り、 あたしは鳥かごのような、閉ざされた空間から、外の世界へと、足を踏み出していた。 晴にぃは、あたしの恩人。 晴にぃは、あたしの誰よりも大切なひと。 そして、密かに、勝手に、愛している、特別なひと。 晴にぃのためなら、きっと、あたしは何でもできる。 だって、晴にぃがいなかったら、 あたしを快く引き受けてくれなかったら、 あたしはきっと、大人になっても、あの施設にいたかもしれない。
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