蒼子~その①

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あたしの入っていた施設は、精神の病んでいるひとがはいる病院みたいなところだった。 はぁとメンタルクリニック。 そんな名前の。 そこの小児病棟で、13才の終わりから2年あまり過ごした。 中学生のはずのあたしは、クリニック内の学校で、小学生の子達に混じって勉強した。 他に、あたしと同じぐらいの子供はいなかったから。 行く当てのない、あたしは、クリニックの院長の温情で、大人のひとたちがいる建物ではなく、本来なら12才までしか受け入れていない子供たちが過ごす建物に、いさせてもらっていた。 その頃のあたしは、大人に対する不信感で病んでいたから。 大人…それは、特にひとりに集中していた。 母だ。 ママ…。 大好きだった。 明るくて、いつも優しくて、友達みたいになんでも話せる、そんな母が、 あたしの知る母ではなくなっていると知ったのは、 知らない町の知らない病院の、知らない病室のベッドの上だった。 あの時のショックは、忘れられない。 私は、大怪我をしていた。 頭にも、体にも、包帯が巻かれ、 身体中が痛かった。 それが何故なのかわからず、不安でいっぱいのあたしを、抱きしめてくれるはずの母は、 同じ病室にいたのに、私に背を向けていた。 母は病室の隅で、誰かと、抱き合っていた。 ママ…誰といるの? あたしの側にいて…。 呟くあたしの声など、変わってしまった母には届かない。 あたしにとっては、たった1日で。 現実の世界では、約1年で。 あたしをとりまく世界自体が、変化してしまったのだと、 あたしは後に、嫌でも気づいた。
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