蒼子~その①

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入院していた病院で、あたしはあたしの噂話を、あちこちで耳にした。 小さな町の小さな病院で、あたしは見世物小屋の変わった生き物のようだった。 入れ替わり立ち替わりくる、私には見覚えのない人たち。 学校の先生も、友達も、見知らぬひとだった。 近所の人だとか、学校の部活の先輩だとか、 みんなが、あたしを気遣い、親しげに声をかけてくる。 でも、その誰にも、見覚えはなかった。 あたしの反応が薄くて、みんな一様に心配し、同じ言葉を口にしようとする。 「あんな目にあったんだから…。」 でも、すぐに誰もが口を閉ざし、目配せをして話を終わらせてしまうのだ。 1週間ほど、あたしはあたしの頭がおかしくなったのかと思い、黙って、私に近づく人たちを観察した。 あたしには、記憶のない人たちのことを何とか思いだそうとしながら。 夕方になると、憂鬱だった。 今日もくる。 母が。 母には、会いたい。 今の私には、唯一記憶に残る人で、顔を見ただけでホッとするから。 だけど、来るのは母だけじゃない。 どうしても、存在を受け入れられないひとが、母と共に訪れる。 したり顔で、 親切そうな顔をして、 あたしのこと、母があたしを呼ぶように呼ぶ。 そして、病院の先生に呼ばれて、母が病室を離れ、あたしと2人きりになると、 あたしのすぐ側にきて、 あたしの体に触れる。 「大丈夫?まだ痛い?」 そう言いながら、私の肩や背中を擦るように触れるから、私はいつも体を強張らせ、拒絶する。
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