4176人が本棚に入れています
本棚に追加
入院していた病院で、あたしはあたしの噂話を、あちこちで耳にした。
小さな町の小さな病院で、あたしは見世物小屋の変わった生き物のようだった。
入れ替わり立ち替わりくる、私には見覚えのない人たち。
学校の先生も、友達も、見知らぬひとだった。
近所の人だとか、学校の部活の先輩だとか、
みんなが、あたしを気遣い、親しげに声をかけてくる。
でも、その誰にも、見覚えはなかった。
あたしの反応が薄くて、みんな一様に心配し、同じ言葉を口にしようとする。
「あんな目にあったんだから…。」
でも、すぐに誰もが口を閉ざし、目配せをして話を終わらせてしまうのだ。
1週間ほど、あたしはあたしの頭がおかしくなったのかと思い、黙って、私に近づく人たちを観察した。
あたしには、記憶のない人たちのことを何とか思いだそうとしながら。
夕方になると、憂鬱だった。
今日もくる。
母が。
母には、会いたい。
今の私には、唯一記憶に残る人で、顔を見ただけでホッとするから。
だけど、来るのは母だけじゃない。
どうしても、存在を受け入れられないひとが、母と共に訪れる。
したり顔で、
親切そうな顔をして、
あたしのこと、母があたしを呼ぶように呼ぶ。
そして、病院の先生に呼ばれて、母が病室を離れ、あたしと2人きりになると、
あたしのすぐ側にきて、
あたしの体に触れる。
「大丈夫?まだ痛い?」
そう言いながら、私の肩や背中を擦るように触れるから、私はいつも体を強張らせ、拒絶する。
最初のコメントを投稿しよう!