蒼子~その①

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「蒼ちゃん。どうしちゃったの?僕たちあんなに仲良しだったのに。」 寂しそうに言われても、あたしにはその人に違和感と嫌悪感しか感じなかった。 「パパって呼んでくれないし。」 だって、あんたは私のパパじゃない。 あんたなんて知らない。 そう言いたいのに、あたしは言えなかった。 この町で、その人は、私のパパとして暮らしていたみたいで、 ママとあたしと、その人は、3人で仲良く生活していたらしいのだ。 いくら考えてみても、信じられないけど。 あたしの知らない間に、あたしの本当のパパは消えてしまっていた。 …ううん。 これはあたしだけ感じる感覚。 現実はそうじゃない。 実際あたしの身の上におきたことは。 消えたんだ。 そっくり1年分。 あたしの記憶が消えたのだ。 だから、わからない。 警察のひとに聞かれても、 母に何度訪ねられても、 友人だっていう子たちに、色んなこと聞かされても。 どうしてあたしが怪我をしたのか。 どうして路上で、背中から血を流し、全裸に近い格好で倒れていたかなんて、 わかるはずもなかった。 あたしが倒れていた路上の前の大きなお屋敷が、なぜ全焼したのかだって、 わたしにはわからない。 わからないけど、たぶん、そこは繋がっている。 あたしは、何かの事件に巻き込まれて、 記憶を失うほどの怖い目にあったのだろうと。 噂話を聞かなくても、それぐらいのことはわかった。
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