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ああ、やだな。
どうしてこんな日に思い出しちゃったんだろ。
頭の中が、膜を張ったように霞んで、はっきりしない。
もうずっと会っていない。
母にも、母の旦那さんにも、
そして本当の父にも…。
かつての家族のことを思い出すと、
背中の左腕側の腰の辺りが、時折、熱を持ったようになって疼く。
思い出せそうで思い出せない記憶が歯がゆいように、
傷の奥の指でも触れられないような場所が、
忘れるな、というかのように鈍く存在を知らせる。
「晴にぃ…。」
無意識に呟く声は、喉を震わせ、外に音となって出たのか…。
そんなこともわからないぐらいに、あたしは知らないうちに、深い眠りの底に落ちていたようだった。
背中の傷の辺りに感じる熱が、疼きとは違い、穏やかで温かみを持って、そっと広がるような感覚に触発されて、
はっ…と突然、あたしの意識は覚醒した。
包まれてる。
目を閉じていてもわかる。
晴にぃの体温、匂い。
眠っていても、ずっと、優しく包み込むようにしてくれる晴にぃの添い寝は、私の崩れそうな不安定な気持ちを、安定させてくれた。
久しぶりの感覚。
そうだ。
本当は今日、結婚初夜だったのに。
逃げるあたしを責めもせずに、
晴にぃはあたしの気持ちを尊重してくれた。
眠ってしまってから、どれぐらいの時がたったのだろう。
あたしはそうっと目を開けて、
それから少し体を動かし、晴にぃの寝顔を正面から見る。
あたしの方を向いて、あたしに腕枕をしてくれながら、晴にぃは眠っていた。
右手は、あたしの腰に触れている。
あたしの背中の傷をなぞっていたのか、人差し指が傷口に添うように置かれている。
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