蒼子~その①

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ああ、やだな。 どうしてこんな日に思い出しちゃったんだろ。 頭の中が、膜を張ったように霞んで、はっきりしない。 もうずっと会っていない。 母にも、母の旦那さんにも、 そして本当の父にも…。 かつての家族のことを思い出すと、 背中の左腕側の腰の辺りが、時折、熱を持ったようになって疼く。 思い出せそうで思い出せない記憶が歯がゆいように、 傷の奥の指でも触れられないような場所が、 忘れるな、というかのように鈍く存在を知らせる。 「晴にぃ…。」 無意識に呟く声は、喉を震わせ、外に音となって出たのか…。 そんなこともわからないぐらいに、あたしは知らないうちに、深い眠りの底に落ちていたようだった。 背中の傷の辺りに感じる熱が、疼きとは違い、穏やかで温かみを持って、そっと広がるような感覚に触発されて、 はっ…と突然、あたしの意識は覚醒した。 包まれてる。 目を閉じていてもわかる。 晴にぃの体温、匂い。 眠っていても、ずっと、優しく包み込むようにしてくれる晴にぃの添い寝は、私の崩れそうな不安定な気持ちを、安定させてくれた。 久しぶりの感覚。 そうだ。 本当は今日、結婚初夜だったのに。 逃げるあたしを責めもせずに、 晴にぃはあたしの気持ちを尊重してくれた。 眠ってしまってから、どれぐらいの時がたったのだろう。 あたしはそうっと目を開けて、 それから少し体を動かし、晴にぃの寝顔を正面から見る。 あたしの方を向いて、あたしに腕枕をしてくれながら、晴にぃは眠っていた。 右手は、あたしの腰に触れている。 あたしの背中の傷をなぞっていたのか、人差し指が傷口に添うように置かれている。
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