蒼子~その①

8/8
前へ
/345ページ
次へ
私の着ていた薄いランジェリーはめくれ、晴にぃの指先が、直接傷に触れている。 それが、とても艶かしく思えて、私は暗がりの中、頬を高揚させた。 間近でぼんやり見える晴にぃの顔の輪郭を、ゆっくりとそっとなぞりながら、 私は急激に込み上げてくる、やるせない気持ちを、ひとりやり過ごした。 晴にぃ…。 誰も知らないけど、 あたしは晴にぃを愛している。 この結婚だって、伯母さんから聞かされた時、嬉しくて胸が踊った。 晴にぃもその場で承諾してくれたこと、夢みたいだった。 晴にぃが、形だけでもあたしのものになる。 しかも、あたしの誕生日の日に。 それは、あたしにとっては何よりも嬉しいバースデープレゼントだった。 晴にぃの心がどこにあろうと、 あたしはいいの。 晴にぃの側にいられれば、それでいい。 でも、いざ、晴にぃに抱かれるとなったら、体がすくんだ。 晴にぃが今まで関係を持っていた、色んな女性と同じようにはなりたくない。 愛はなくても、 晴にぃの"特別な存在"なんだと思いたかった。 だから、あたしと結婚したんだから、他のひととは、しないって即答してくれて、すごく嬉しかった。 つい、本心が顔に出そうで、焦ってしまった。 晴にぃに本当の気持ち、ばれるわけにはいかないのに。 お互い愛はなくとも仲良くし、 お互いの過去を詮索せず、 お互い今を大切にする。 そんな約束をあたしたちは交わして、結婚したのだから。
/345ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4176人が本棚に入れています
本棚に追加