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「晴にぃ、忘れ物。」
玄関で靴を履いていると、高校の制服のブレザーをひっかけるように着ながら、蒼子が小走りでやって来た。
「ん?」
靴を履き終え、振り返る俺の首根っこに腕を回した蒼子の潤んだ唇が、軽く俺の唇に触れる。
「あたし寝坊したから、まだしてなかったでしょ?」
そう言って、もう一度、俺の唇に唇で触れる。
「いってらっしゃい。」
俺からゆっくり離れると、
俺の幼い妻は、にっこり微笑んだ。
「お仕事、がんばってね。晴にぃ?」
小さく動く蒼子の唇に見入っていた俺は、怪訝な顔で俺を見る蒼子に、中途半端な笑みを向けた。
「あ、うん。行ってくる。
お前も気を付けて、学校行ってこいよ。」
「うん。わかってる。」
「いってきます。」
俺は足元に置いてあった鞄を手にすると、玄関の外に出た。
ドアを閉めながら、俺に手を振る蒼子を、名残惜しい気持ちで見る。
滅多に笑わない蒼子が俺だけに見せる笑顔。
それを見るだけで、1日頑張れる気がした。
少しずつだが、進展していくふたりの仲にも、わくわくしていた。
俺にも、人並みの幸せがやっと来ているのかもと思える瞬間が、蒼子といると 度々あった。
結婚してから、一月が経とうとしていた。
蒼子と同居を始めてからすでに3年以上。
だから、対して生活は変わらない。
変わったことといえば、
同じベッドで寝ることと、
夜寝る前と、朝起きた時に、キスを交わすこと。
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