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俺はまだ、蒼子を抱いてはいなかった。
蒼子が、というより、俺の蒼子への気持ちが急速に変化していたからだ。
抱かないのではなく、
抱けない、のだ。
愛がなくても、平気で何人もの女を抱いてきた俺が、妻になった女を抱けないなんてことになるとは。
蒼子よりも俺の方が、
この結婚に強く影響されている。
結婚を期に、
蒼子は日々、格闘していた。
慣れない家事全般に。
洗濯以外、それまでは俺が、家のことをしていた。
元々、俺の家だ。
炊事も掃除も、洗濯だって、ずっとやってきたのだから、ひとり分増えたからって別に苦じゃない。
独り暮らしは、もう長い。
俺の元にきた当初の蒼子が、
洗濯は、自分のもの、特に下着類だろうけど別で洗うから、思いきって俺の分も頼んでしまった。
蒼子は、素直に受け入れて、洗濯は、欠かさずやってくれた。
役目を与えたら、ぎこちない二人暮らしに、蒼子は目に見えて慣れていった。
それでも垣間見える、蒼子の育ち。
物腰や、言葉の選び方もそうだが、何よりも行動が、普通の家庭よりはかなり上流の家庭で育ったような感じだった。
人に、何かしてもらうことに慣れている。
自分からは、何をしていいのかわからない。
頼めば、素直に、しかも喜んで何でもしようとするが、不器用なのもあるのか、出来ずに失敗しては、蒼子は落ち込んでいた。
結局、俺がやったほうが早いし、余分な汚れが増えないので、自然と俺が、特に炊事を担当してきたのだ。
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