晴生~その②

3/19
前へ
/345ページ
次へ
俺はまだ、蒼子を抱いてはいなかった。 蒼子が、というより、俺の蒼子への気持ちが急速に変化していたからだ。 抱かないのではなく、 抱けない、のだ。 愛がなくても、平気で何人もの女を抱いてきた俺が、妻になった女を抱けないなんてことになるとは。 蒼子よりも俺の方が、 この結婚に強く影響されている。 結婚を期に、 蒼子は日々、格闘していた。 慣れない家事全般に。 洗濯以外、それまでは俺が、家のことをしていた。 元々、俺の家だ。 炊事も掃除も、洗濯だって、ずっとやってきたのだから、ひとり分増えたからって別に苦じゃない。 独り暮らしは、もう長い。 俺の元にきた当初の蒼子が、 洗濯は、自分のもの、特に下着類だろうけど別で洗うから、思いきって俺の分も頼んでしまった。 蒼子は、素直に受け入れて、洗濯は、欠かさずやってくれた。 役目を与えたら、ぎこちない二人暮らしに、蒼子は目に見えて慣れていった。 それでも垣間見える、蒼子の育ち。 物腰や、言葉の選び方もそうだが、何よりも行動が、普通の家庭よりはかなり上流の家庭で育ったような感じだった。 人に、何かしてもらうことに慣れている。 自分からは、何をしていいのかわからない。 頼めば、素直に、しかも喜んで何でもしようとするが、不器用なのもあるのか、出来ずに失敗しては、蒼子は落ち込んでいた。 結局、俺がやったほうが早いし、余分な汚れが増えないので、自然と俺が、特に炊事を担当してきたのだ。
/345ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4176人が本棚に入れています
本棚に追加