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蒼子なりに、俺との夫婦としての生活を、真面目に真摯に取り組みたいと思い実践していこうとする意志が、強く見受けられた。
それが、かえって俺の気持ちを複雑にする。
俺は、蒼子の過去を、はっきりとは聞いていない。
預かった当初は、
蒼子がこんなに長く同居することは想定に入っていなかった。
伯母からも、
とりあえず預かってほしい…と言われていたし。
いくら年が離れていて、
親戚だとはいっても、男と女。
俺の方は、数回、まだ幼児だった蒼子に会ってはいたが、
蒼子からしたら、俺は見知らぬ男だ。
すぐに嫌になって出ていくだろう…なんて、思ってもいた。
叔母からの頼まれ事は、一切断れない俺としては、
蒼子のほうから、断りを入れることを、密かに望んでいた。
だから、詳しい事情を聞かなかった。
深く関わるつもりなんて、
全くなかったんだ。
なのに、蒼子は…。
仕事場へ行く道すがら、
毎日のように蒼子のことを考えている自分がふと可笑しくて、俺は口元を押さえた。
歩きながら、ひとりでニヤリとするのは、かなり不気味だ。
家から、仕事場のヒジネスホテルまでは、徒歩で10分程度だった。
知り合いや、仕事仲間に、緩んだ顔を見せたくない。
俺は、鉄仮面で通っているし、
仕事場では、責任ある仕事についている。
いつ何時でも、気を抜いている姿を見せる訳にはいかなかった。
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