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「そういう、融通のきかない感じが、何故かいいのよね。結婚、本当にしたの?」
俺の腕に、そっと手を置いて囁く伊村さんから、俺はゆっくり体を引いた。
「しましたよ。」
「指輪なんかして。
カモフラージュじゃないの?
私みたいな女を遠ざけるための。」
俺の左手の薬指に目を落としながら、呟く伊村さんの声に、微妙に非難の色が混ざる。
「俺もいい歳なんで、身を固めただけですよ。」
俺は素っ気なく、そう答えると、
声を強めて言った。
「申し送り、お願いします。」
まだ、言い足りない聞き足りないといった不満げな表情を浮かべながら、
伊村さんは、申し送り事項を延べ、内容を箇条書きにした用紙を差し出した。
「ご苦労様でした。」
用紙を受け取り、事務所に戻りかけた俺の腕を、
伊村さんが掴んだ。
振り向くと、
怒っているのか、目がつり上がってる。
「ねぇ、本当に、私たち終わりなの?」
「…もともと、始まってないけど?」
俺は、伊村さんに向き直ると、早口で言った。
「あなたとは、感情で繋がったことはない。
最初から、そのつもりだっただろ?」
「最初は、そうだったけど…。」
「今も、これからも、俺たちの気持ちが繋がることはない。
どうしても、今までの俺たちのような関係を持ちたいのなら、相手を他に見繕ってくれ。
俺は、あなたが俺と同じ人種だから、関係を持ったんだ。
そうじゃないなら、余計に俺には近づかないでほしい。」
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