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俺は、フロント内に押し戻すようにして、伊村さんの肩を押し、フロントに繋がるドアを閉めた。
今更ながら、
同じ職場の女と関係を持った自分の浅はかを後悔した。
伊村さんは、俺より先に、このホテルに勤めていた、俺よりも10才ほど年上の人妻だ。
ドライな考えの持ち主で、夫以外に、俺のような自分よりも若い男何人かと、体の関係を持っていた。
どうしても好きだったひとと結ばれなかったやりきれなく辛い想いを、夫だけでは払拭出来なくて、色んな男と付き合うことで紛らせていると言っていた。
愛は、いらない。
でも、渇きを潤したい。
それは、俺の抱える気持ちに似ていた。
俺の、どうしても満たされない想いに。
心底愛したひととは結ばれることなく、行き場をなくした、俺の想い…。
何年もその想いはさ迷い続けていた。
薄れたり小さくなったりしない想いをぶつけるように、
俺は後腐れのない、遊びだと割りきって若い男と関係を持つ、
伊村さんのような人妻ばかりを選び、
時折、愛のない体だけの行為を繰り返していた。
蒼子と暮らすようになっても、それは続いていた。
だが、間近で、蒼子の純粋さや幼さに触れるようになると、自分の行いがとても穢らわしく不純に思えてきて、人妻との関係に距離を置くようになった。
女を抱かなくても、
俺の中の渇きが徐々に薄れていく。
蒼子の存在が、渇いていたのは体ではなく心なのだと、気づかせてくれた。
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