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また、気づけば蒼子のことを考えている自分に、俺は苦笑した。
まるで、恋煩いだ。
このままでは、仕事に支障をきたしそうだ。
すでに、法律的に蒼子のことは手に入れている。
焦る必要はない。
自分の気持ちも、
蒼子の気持ちも、
ゆっくりと解き明かしていけばいい。
俺は、事務所の窓際の真ん中にある、自分用の机に向かうと、一度大きく深呼吸をし、それから椅子に腰かけた。
まだ、出勤していない早番の人たちが誰か、正面の黒板で確認し、それからたまった書類に目を通す。
長年続く不況の煽りを食って、
近年業績の芳しくないこのビジネスホテルの経営を、建て直すのは容易ではない。
伯母には、大袈裟なぐらいに変に期待されているが、俺は日々業績を上げる方法に、頭を悩ませていた。
基本的にはビジネスマンの利用が多いが、受験シーズンには受験生、就職活動する学生など、取り込めることのできそうな客層を、増やす努力が必要だった。
伯母の指示で、最小限に減らした人員をフル活用していかねばならないのも、悩みの種だった。
営業活動も、社員全員でこなしているのが現状だ。
7時のアラームが腕時計を震わす。
俺は、一旦書類の束から目をあげる。
ぴったり同じ時間に、毎日のように、ホテル内の小さなカフェの店員が、入れたての珈琲を運んできてくれるからだ。
「おはようございます。」
1年ほど前から、カフェの早番の時間に働く青年が、今日も、珈琲の香りと共に俺の前に現れる。
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