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「おはよう。」
お盆の上に、いつものように珈琲カップを乗せて、細身の体にギャルソンの格好がとてもよく似合うその青年は、声をかけた俺の顔を見て、少しはにかんだように微笑む。
「ありがとう。」
珈琲の香りに包まれると、爽やかな気分になる。
俺の机の端に、邪魔にならないように、珈琲カップを置きながら、その青年、杉田(スギタ)くんが小脇に抱えた薄いA4サイズぐらいの紙袋を差し出した。
「これ、預かったんですけど。」
俺と同じか、もう少し高い背を屈めて、椅子に座る俺に、その紙袋を手渡しながら、杉田くんは誰もいない事務所で、声を潜ませた。
「女子高生、みたいでしたけど。
受付の伊村さんに言付けるつもりだったと思うんですけど、なぜか近くを通った僕に声をかけてきて。」
受け取った紙袋の中身は、営業用の資料だった。
急を要するものではなかったけれど、
今日仕事に持っていくつもりで、玄関先に用意してあったものだった。
朝の不意打ちの蒼子からのキスで、すっかり忘れていた。
女子高生、と聞かなくても、届けてくれたのが蒼子なのは明らかだった。
「それで、あの…。」
言いにくそうに、言い澱む杉田くんが、遠慮がちに言った。
「僕の気のせいだったらすみません。でも、ちょっと気になるし…。」
困惑の表情を浮かべる杉田くんの物言いに、俺は不安になった。
「なにか、おかしかった?」
「泣いてた…というか、泣くのを我慢してる…みたいな顔をしてました。唇キュッと噛んで。
あの、ちょっと、こっちがハッとするような表情で…って、総支配人さん?」
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