蒼子~その②

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「ねぇ、あんた何がしたいの?」 美咲が小脇に抱えていた、あたし用の教科書やノートを差し出した。 受け取るあたしに、美咲が心配そうに言う。 「この1週間のあんた、変だよ。」 「そう?」 渡り廊下の窓から離れ、 すたすたと数歩先に進むあたしの後を、美咲が小走りでついてくる。 「あんた、柄にもないことするから、変な噂がたってるよ、知ってた?」 噂…。 それは、願ったり叶ったりだ。 噂が立つの、 思ったよりも早いし。 「どんな?」 「え?」 あたしが切り返してくるとは思っていなかったのか、 美咲の言葉が詰まる。 あたしは、歩みは止めずに美咲を見た。 「どんな噂なの?」 「どんなって、…本当に知らないの?」 「…。」 答えないあたしをチラッと見ながら、美咲は言う。 「あんたが、あの先生とデキてるって…。」 「あの先生?」 「だから、現国の池谷先生だよ。」 「…ふぅん。」 「ふぅんって。」 美咲が、あたしの腕に、自分の腕を絡めてきた。 「ほんとのところは、どうなの?」 「どうって?」 あたしが、すぐ横にある美咲の顔を見る。 美咲は、真っ直ぐにあたしを見返して、それから小さくため息をついた。 「あんた、本当に顔色ひとつ変えないよね。 読めないわ、あんたの考えてること。」 あたしの心を、そうそう簡単に読まれてしまっては困る。 それが、友人の美咲であっても。
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