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「で?どうなの?」
「さぁ。」
「さぁって…。」
美咲が諦めたように、小さく息をつく。
「また、…絡まれるよ、先生のファンに。」
ファンとか、バカみたい…。
即座に胸の内に沸き上がる悪態。
呟きが漏れていたのか、美咲が呆れたように言葉を続ける。
「蒼子、池谷先生との間に何があるのよ。」
「何もないよ。」
「じゃあ、なんなのよ。」
堂々巡りの質問に、あたしはつい笑ってしまった。
「あのねぇ、これでも私、心配してるんだよ。」
今度はムッとして、あたしを睨む美咲。
ぶっきらぼうな物言いのわりに、
とても情が深い美咲に心配されるの、実は心地いいんだって、そう言ったら、
美咲はどんな顔をするだろう。
ふざけるなって怒るか、
それとも更に心配するか…。
あたしは、まじまじと、
美咲を見る。
この高校に入学した日、
美咲と出会った瞬間を思い出す。
あの日の美咲も、こんなふうに、初めて会ったばかりのあたしを心配そうに見つめていた。
新しい環境への戸惑いと不安で、何日もろくに眠らなかったせいで、入学式の最中に気分を悪くしてフラフラなあたしの異変に、たまたま隣にいて気づいてくれたのが、美咲だった。
保健室まで付き添い、
ベッドに横になった途端に眠ってしまったあたしをほっとけなくて、入学式も初日のホームルームにも参加せずに、あたしの側にいてくれた。
美咲の人の好さに、淋しさに支配されていたあたしの心は救われた。
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