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「あたし、バージンじゃないかも。」
新婚旅行代わりの、高級ホテルの最上階にある豪華なスイートルーム。
天井までの大きな窓の外は夜空しか見えず、
新月のお陰で月明かりもなく、俺の結婚相手の表情なんて確認できないほど、暗い。
「それって、今言わないといけないことなのか?」
キングサイズのベッドの上で、今まさに、抱き寄せ、キスをしようかと、暗闇の中を手探りに近い形で、やっと頬に触れたのに。
今朝、正式に俺の妻になったはずの女は、いつもと同じように、抑揚のない口調で俺のヤル気を削ごうとする。
「期待してたら悪いから。」
「お前、この3年、確実に男いなかっただろ。
なんでそんなこと言い出した?
しかも、かもって…。」
俺は、彼女から離れると、ベッド脇のライトをつけた。
淡い灯りのなかに、薄く透けている下着をつけた姿で、俺を見つめる彼女が浮かび上がる。
俺は、つい、ゴクリと唾を飲み込んだ。
こいつと結婚すると決めた日から、女を抱いていない。
それが、俺なりの誠意であり、けじめだと思ったから。
俺たちは、それなりに信頼はしていても、
お互いの間に愛はない。
だが、夫婦となった限りは、夫婦の営みを行うと、ふたりで決めたのだ。
「怖じ気ついたか…。」
「違う、そんなんじゃ。」
「いいんだよ、別に、今日どうしてもヤらなきゃいけない訳じゃないし。」
俺は、彼女から、顔を背け、ベッドの真ん中に寝転んだ。
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