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それは、大好きなはずの晴にぃも、例外ではない。
自分の母親にさえも。
あたしは、1年分の記憶を失い目覚めたあの日から、
誰にも本心を見せられないでいた。
ずっと感じてきた、
欠けている感覚。
記憶のない期間の、
あたしの知らないあたしが不意に現れて、あたしの背後にぴったりくっつき監視する。
そんな嫌な感覚がずっとあたしの心に霧をかけていた。
今でもわからないことだらけの空白の1年が、あたしをがんじがらめにする。
「蒼子、保健室、行く?」
授業が始まったため、声を潜めながらも優しく労る美咲に、
罪悪感を抱いたあたしは、早口で囁いた。
「大丈夫。少し考え事してただけだから。」
あたしは、心配してくれる美咲を安心させたくて、意識して頬を緩め、口角を上げた。
上手く笑えたかな。
ドキドキしながら、美咲を見る。
美咲は私をじっと見て、それから微笑みを返してくれた。
安心したように、小さくため息をつきながら。
よかった、ちゃんと笑えたみたい。
心の中ではちゃんとある喜怒哀楽を、私は上手く外に伝えられない。
喜びの感情は、特にわかりにくいらしい。
だからあたしは、気を付けないと、すぐに誤解される。
そんなつもりはないのに、何か気にいらなそうな顔をしているように、他の人には見えてしまったりする。
表情の乏しさ故に、冷たいひとに見られ、
だから、氷の…なんて言われてしまうのだ。
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