蒼子~その②

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美少女のくだりは、単なる嫌味。 私なんて、単に色白なだけだ。 授業が終り、 あたしは美咲と教室に戻った。 今日の授業はこれで終わりだったが、 クラス委員の美咲は、先生に用事を言いつけられていた。 だからあたしは、 一緒に夕飯の買い出しを手伝ってくれると言う美咲を、図書室で待つことにした。 図書室はこの時期、 受験や期末試験の勉強をする生徒で込み合っていた。 机に空きはなかった。 仕方がないので、本棚の陰に体を預け、 今週中に返却予定の図書室で借りた本を読む。 八割は読み終えていた。 話しはクライマックスに突入していた。 いつの間にか、あたしは本の中の世界に没頭していた。 「君、こんな甘い恋愛もの読んだりするんだ。」 すぐ間近で、涼やかな声がして、 本を夢中で読んでいたあたしは、不覚にも驚いてしまった。 読んでいた本を落とし、 体を声の主の反対方向へ大げさなぐらい、ずらす。 「ごめん、ごめん。 驚かすつもりはなかったんだよ。」 あたしが落とした本を身を屈めて拾いながら、 声の主、さっきあたしが渡り廊下から見下ろしていた、この学校の先生である池谷 聡(イケヤ サトシ)が、言う。 笑いをこらえながら。 あたしは思わずムッとしながら、池谷先生から、本を奪うように受け取った。 それから、池谷先生に背を向け、この場を立ち去ろうとした。 先生と接点を持つのはまだ早い。 そう思っていたから。 なのに。 「待って、君、僕に何か話があるんじゃないの?」 今すぐにでも、この場を離れたいあたしの気持ちを知ってか知らずか、 池谷先生が、ゆっくり言った。
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