蒼子~その②

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1週間ほど前のことだった。 あたしは今日のように、放課後、図書室で時間を潰していた。 あたしたちが3年生になった日、 ひとのよい美咲がクラス委員を引き受けた時から、 あたしの図書室通いは始まった。 図書室は静かで、座るところもあり、何しろ読みきれない量の本がある。 空いた時間を潰すには、絶好の場所だった。 ここで、あたしは、 池谷先生の彼女が、 「トウコ」という名だと知った。 図書室で何度か、本を探す池谷先生に遭遇したけれど、あたしはそれまで全く興味もなく、接点もなかった。 先生は今年赴任してきて、1年生に担任を持ち、教えるのも主に1、2年生らしかった。 だから3年生のあたしが知らなかったのも無理はない。 ただ、たまに、 図書室で女子生徒と騒いでいるのがカンに障り、つい冷たい視線をぶつけたりはしていたけど。 池谷先生は、あたしと関わりあいのないひと。 それが、あたしのそれまで感じていたことだった。 でも、1週間ほど前。 まとわりつく数人の女子生徒が、執拗に先生に問いかけていた内容が、 近くでその日読む本を探していたあたしの耳に、否応なしに入ってきたのだ。 トウコ…。 それは、ここ数ヶ月、あたしの心の中に居座り続け、今ではシコリのようにくっつき、出ていってくれない名前だった。 晴にぃの想い人と、同じ名前。 単に同名だけだったならよかったのだけど。 池谷先生の彼女と、 晴にぃの想い人は、 同一人物だったのだ。
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