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まるで、あたしと晴にぃの未来が見えてでもいるかのように、きっぱりとそう言い切る伯母の言葉に、あたしは身を委ねた。
晴にぃの側に、ずっといられるのなら、なんだってよかった。
身代わりでも、道しるべでも、あたしには同じこと。
晴にぃの心まで欲しいなんて、そんなおこがましくてずうずうしいこと、最初から望んでなどいない。
だってあたしは、
不完全な人間だから。
真正面から、晴にぃにぶつかっていけるほど、純粋でもない。
晴にぃの心が別の女性にあると知っていながら、
そ知らぬ顔で結婚するような、そんな打算的で狡い女なのだ。
伯母と会った喫茶店を出た後、
あたしはすぐに、本屋に寄った。
料理本のコーナーに、
トウコさんの名が、大きく宣伝されていた。
[地元から生まれたカリスマ料理人―トウコ―]
苗字のない、カタカナの名前のみのシンプルさが、目をひいた。
季節の野菜を使った、家庭料理の本。
果物メインの、スイーツの本。
それから、彼とのふたり暮らし用、ブランチメニューの本。
あたしは、何冊かあったトウコさんの本の中から、この3冊を手に取り、レジに向かった。
ドキドキした。
悪いことをしているわけじゃない。
でも、晴にぃの探られたくない世界に勝手に足を踏み入れたような、そんな背徳感みたいなものがあたしの体を駆け巡る。
晴にぃが愛した女性を理解したい。
どんな女性であれば、
晴にぃから愛されるのか。
その時のあたしは、そんな考えに囚われていた。
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