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「おい、お前、無視するなよ、おいってばっ。」
背後から、苛立つ声がして、あたしは我に返る。
図書室を出たあたしは、いつの間にか、下駄箱の側まできていた。
動揺している、あたし…。
池谷先生に、話しかけられたのが、思っていたよりも衝撃的だったみたい。
「おい、蒼子。」
馴れ馴れしくあたしの名を呼ぶ男の存在にも、しばらく気づかないで、あたしはひたすら廊下を歩いてきたようだった。
木下の声に、益々苛立ちが乗る。
「下の名前で呼ばないでって言ってるよね。」
あたしは、小さく深呼吸をすると、くるりと木下に向き直った。
「なんか用?」
いつもより更に抑揚のない声で、あたしは言った。
「あ、いや…。」
つい、いまさっきまで、苛々と声を荒げていたはずの木下が、口ごもる。
いつもそう。
軽口を叩くわりに、
あたしが正面から向き合おうとすると、そわそわオドオドとして、落ち着きがなくなる。
「美咲なら、まだ委員会だよ。
でも、帰りはあたしと帰るから、待ってても無駄だよ。」
チャラチャラした茶髪の髪型にいくつも開いたピアスの穴。
この学校は数年前まで、ミッション系の女子校だったらしく、男子を受け入れ共学になった今でも、規律が厳しい。
アクセサリーをつけるなんて、もっての他だ。
でも今のご時世、
ピアスの穴を開けるのは、当たり前のことのように横行しているので、アクセサリーをつけないのならば、先生たちは見て見ぬふりをしていた。
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