晴生~その①

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俺が返事をしないので、蒼子の声が不安げに揺れる。 「晴(ハル)にぃ?」 「何か着ろよ。」 目の毒だから。 そう言おうとして、やめる。 「風邪でもひかれちゃ、かなわないからな。」 「でも…。」 言いにくいことでもあるのか。 困っているようだ。 「どうした?」 「伯母さんに、言われたの。」 「何を。」 「晴にぃが、他所で遊ばないように、ちゃんと務めを果たすようにって。 …そのために、お薬も飲んでるのに…。」 「薬?」 蒼子は偏頭痛が酷いため、俺の元に来た時にはすでに、何種類かの薬を服用していた。 だから、気づかなかった。 「薬って?」 「妊娠しないようにするやつ。」 ピルのことか? 「晴にぃは、子供が苦手だから、妊娠は望んでいないって。 そう、伯母さん言ってた。」 勝手なことを。 確かに俺は、父の姉である伯母には、一番辛い時を救ってもらった。 だから、彼女に逆らうつもりはない。 だが、そんな夫婦で相談して決める子作りのことにまで、干渉されたくない。 ずっと独り身だった俺が、蒼子との結婚を決意したのは、叔母の一言がきっかけであり、 俺も蒼子も、叔母の思うがままに、動かされていたとしても。 「気にするな。」 「でも…。」 「どうした?」 もじもじし出した蒼子の頭をそっと撫でる。
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