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「晴にぃ?」
「ん?」
俺の名を呼んでおいて、
蒼子は黙り込んでしまった。
しばらく待ったが、返答はない。
「蒼子…?」
頭を持ち上げ、体をひねると、蒼子の方を見る。
蒼子は、眠っていた。
俺の着ていたシャツの裾をしっかり掴み、俺の背中に頬を付けて。
こんな無防備で、よくまあバージンじゃないかも…なんて言うよな。
かも…か。
俺は、蒼子を起こさないように、ゆっくりと体の向きを完全に変える。
体を一度起こし、足元にあった上掛けの薄手の布団を蒼子と自分の体にかける。
それから、蒼子の体に腕を回した。
蒼子が、もぞもぞと動き、頭を俺の腕に乗せる。
それから、俺の胸に顔を埋めて、安心したように、気持ち良さそうな寝息をたて出した。
俺は、ついため息を漏らしつつ、蒼子の肉体に意識がいかないように、何かを考えようと努めた。
そして、ふと、さっきの蒼子の言葉を思い出した。
かも…。
蒼子はよく、言葉の語尾に、そうつけて話をする。
特に過去の話は、自信なげに、かも、を連発する。
俺は、蒼子の背中を指先で触れた。
手探りで、探す。
蒼子に、かも、をつけさせていることに繋がるもの。
目にすると痛々しく、
目を背けたくなるもの。
だが、こうやって直に触ると、まるで蒼子の内側に触れているかのような、不思議な感覚に囚われて、つい、触りたくなる。
それは、ちょうど蒼子の細い腰の上あたりにある、
5センチほどの、傷跡だった。
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