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「なぜ私がそのような雑よぅ! ――……コホン。お遣いをせねばならぬのですか!」
急速に熱せられた疑問が口を衝き、ついつい大切な業務を貶してしまうところだったと、アレシア・レヴィーは顔を赤くして俯いた。
受付所の広々とした窓の向こうでは斜陽が茜色を放ち、魔法都市『ヴァンフィール』の石造りの町並みを暖色の光で包んでいる。
そんな町の中心部にそびえ立つ、中央司令部治安維持課での一幕だ。
「貴様だからだろう。見習いにはもってこいだ」
その上官の一言に今度は不満が沸騰しかけたが、慌てて呑み込み「ですが……」力無くうなだれた。
続く言葉が見当たらない。さらには依頼に訪れている住民たちの目も気になり、
「……わかり、ました」
アレシアは紅蓮の双眸に影を落とし、渋々と首を縦に振った。
アレシア・レヴィーは先日一九の誕生日を迎えた下級貴族の娘だ。
母親の反対を押し切り国家魔術師の試験に受かったのが昨年の暮れ。
その後聖ヴァンフィール騎士団に仕官し、今では一人前の騎士だというのに、配属先の上官はアレシアが女だからという理由だけで見習い扱いを解こうとしない。その結果が今の悶着だった。
治安維持課に配属され早半年。その間アレシアに与えられた仕事といえば、雑務と呼べるものだけだ。
国家魔術師といえばエリートの中のエリートなはずなのに……。
胸に蔓延した不平不満に顔をしかめながら、支度に取り掛かる。
父の形見である和刀を腰に下げ、茶色のインナーの上に支給されている胸当て、肩当て、肘当てを装着。
アレシアとしては無駄に多い肌の露出が気になるところだったが、それも全て動きやすさに特化してのこと。
文句を垂れてもしようがないのだが……いや、しかし!
「これは……どうにかならないものか」
胸当ての“空白”だけはどうしても気になってしまう。
上官曰く、一般的な成人女性のサイズで作ってあるらしく、つまり、要するに、どうにも、こうにも、自分の胸は平均よりも“些か! 小振り”らしい。
「……くそぅ」
着用の度に思い知らされる現実に顔をしかめながら職場を後にしたアレシアは、青色が溶け始めた空を確認し、早く仕事を終わらせようと拳を握るのだった。
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