子羊はもう捧げた

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  「ま、いいや。とにかく文化祭の話しなきゃねっ」  美織はにかっと明るい笑みを浮かべ、前の席の椅子を引いて腰掛けた。志季は頬杖を外し、ペンケースを開く。自分の鞄を漁ろうとしていた美織に突き出した。 「はい」 「はへ?」 「いや、いるでしょ? 署名欄とかあるんだし」  探そうとしてたんでしょう、と志季は小首を傾げた。志季にしては当たり前の行動であったが、美織の反応は違った。擬音語で表すならば「キラキラ」である。真正面からぶつけられる熱い視線に、志季はたじろぐ。  何なのだろう、この眼差しは。痛いぞ、これ。 「……何?」 「いやあ、高槻くんってば可愛い顔して紳士だったんだねえ」 「は?」  可愛いは余計だと突っ込みたかったが、とりあえず、しみじみと首肯する美織を凝視する。他にも疑問はあるが、楽しげに微笑んでいる彼女の様子に水をさすことも憚られた。  若干の居心地の悪さを紛らわせる為に、志季は文化祭の計画用紙に目を通す。  本来、志季には彼女を手伝う義理はない。ただ、この状況には一人の男子生徒が関与していた。 「でもさ、高槻くんが手伝ってくれるなんてあたし的には意外だったな。鷹司に代理を頼まれたとはいえ、高槻くんなら断るかもなーって思ってたし」 「……そう?」 「だって、高槻くんってやりたくないことはやらない! って感じだもん。何て言うのかなー、他人の為に自分は曲げないってやつ? 鷹司がどうしても外せない用事があるって代理頼んでるのを見たときは『頼む人間違えたなーあいつ』とか失礼ながら思っちゃったし。でもでも、実際の高槻くんは紳士だったんだけどね」  満面の笑みの美織に、志季は数度瞬く。他人から自分は随分と淡白な人間に見えていたらしい。だが、実際はそうでもない。見ず知らずの他人の為に奔走出来るかと言われれば即答出来ないが、それが親しい人間であれば別だ。押しに弱い。志季自身、その自覚もある。  鷹司真斗。親友と呼べる間柄の彼に頼まれれば、志季は断り切れないわけで。  漸く真斗の代理内容を把握した志季は、読み終えた用紙を美織に突き返した。 「坂仮さん」 「うん?」 「喫茶店をやろうってなったのは知ってるよ。でも、僕は候補に上がってるこのラインナップに頭痛がしてきたんだけど」 「えー? 高槻くん、メイド喫茶とか執事喫茶とかコスプレ喫茶とかに興味ないの?」 「うん、ごめん。ない」
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