54人が本棚に入れています
本棚に追加
休みだった八月は飛ばすにしても、もう四ヶ月。その間ずっとクラスメイトをやっているはずなのに、美織が志季について知っていることはあまりない。
学年三十位以内に入る秀才。
入れ替わりの激しい上位争いのなか、あの涼しい顔で順位をかっ拐っていく美少女――ではなく、美少年。しかも、噂によると彼はアルバイトをしているらしい。勿論、禁止されているわけではない。部に所属していないから時間もあるのだろう。ただ、偏差値の高い兎神(とがみ)学園で上位に居る生徒のうち、そんなことをしている暇のある奴がどのくらいいるものか。少なくとも美織の友人にはいない。
とりあえず、凄いひと。
それから、壊滅的に愛想がない。他人と会話をしないのだ。自然に話すと言えばあの男子だけ。
「それがあの、鷹司真斗(たかつかさまさと)だもんねえ。不思議すぎるよ、高槻くん」
「真斗がどうかしたの?」
「どぅえっ!?」
「……何、その驚き方」
志季は美織を呆れた表情で見る。こほん、と咳払いし、美織は取り繕うような笑みを浮かべた。
「いやあ、何でもないよ。あ、そうだ、携帯はいいの?」
「うん」
「誰から? おお、まさか彼女とかとか?」
「違うよ」
「えー、じゃあ誰?」
問うたが、無言。
返ってきたのは冷たい眼差しだった。
訊くな、ということらしい。オーケイ、訊かない。美織は莫大な好奇心を何とか押し殺し、黙って目的のプリントを突き付けた。
「兎神学園文化祭?」
「イエスっ! 秋のメインはやっぱり文化祭でしょ! でもってあたしは文化祭実行委員なわけです、いえーいっ!」
「ふうん」
「ノリ悪っ! 萎びすぎだよ高槻くん! 何か達観してるよ! もっと人生においてリアクション取っていこうよっ」
「萎びると達観を一括りにする、坂……何とかさんの思考回路にびっくりしてるよ」
「坂仮だっての! いい加減覚えろ秀才野郎! そりゃあ夏休みの件では感謝しまくってるけどね、こっちは名前も覚えてくれない人に感謝したくないよっ」
そう、決定的に美織と志季を知り合わせたのは――八月五日。ちょうど今から一ヶ月前の“あの”真夏日である。
最初のコメントを投稿しよう!