開幕

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「ごめんね、蓮ちゃん。本当なら行かせてあげなきゃなのに…」 「大丈夫です、お姉さん。いつも母の面倒を見ていただいてありがとうございます」 蓮は小学校を卒業しても、中学生にはなれなかった。 光子は夫婦二人暮らしで、旦那の仕事はあまり収入が良くないらしい。 「いいの。だって蓮ちゃんのお母さんは私の姉なんだから。蓮ちゃんだって私の姪っ子でしょ?」 優しい光子のその笑顔は誰がどう見ても疲労しきっていた。 この笑顔が、蓮に罪悪感を与える。 一年前、父が死んだ。 雨が降る日に川沿いで何かをしていた時、土砂崩れで落ちてきた大きな土の塊や岩の下敷きになって。 蓮はその時の事をはっきりとは覚えていない。 「それじゃあ私、また出掛けて来ます。夕方には戻りますから」 玄関の扉を押そうとして、光子の方を振り返った。 「何かお手伝いします。帰ったらでよければ」 光子は微笑んで、 「行ってらっしゃい。くれぐれも、危険な所には行かないようにね」 と言ってくれた。 蓮は頷いてみせると今度こそ扉を押して外へ出た。 光子は蓮の行き先を聞くことはない。 蓮にとってそれは安堵の意味で助かるものであり、少し寂しいものでもあった。 疑問に思わないはずもなく、それが彼女の姪っ子の扱い方とするならば、やはりどこか隔たるものがある。 悲しい現実かもしれない。 蓮の父と母のことが、二人に見えない壁を作っていた。
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