5人が本棚に入れています
本棚に追加
「ごめんね、蓮ちゃん。本当なら行かせてあげなきゃなのに…」
「大丈夫です、お姉さん。いつも母の面倒を見ていただいてありがとうございます」
蓮は小学校を卒業しても、中学生にはなれなかった。
光子は夫婦二人暮らしで、旦那の仕事はあまり収入が良くないらしい。
「いいの。だって蓮ちゃんのお母さんは私の姉なんだから。蓮ちゃんだって私の姪っ子でしょ?」
優しい光子のその笑顔は誰がどう見ても疲労しきっていた。
この笑顔が、蓮に罪悪感を与える。
一年前、父が死んだ。
雨が降る日に川沿いで何かをしていた時、土砂崩れで落ちてきた大きな土の塊や岩の下敷きになって。
蓮はその時の事をはっきりとは覚えていない。
「それじゃあ私、また出掛けて来ます。夕方には戻りますから」
玄関の扉を押そうとして、光子の方を振り返った。
「何かお手伝いします。帰ったらでよければ」
光子は微笑んで、
「行ってらっしゃい。くれぐれも、危険な所には行かないようにね」
と言ってくれた。
蓮は頷いてみせると今度こそ扉を押して外へ出た。
光子は蓮の行き先を聞くことはない。
蓮にとってそれは安堵の意味で助かるものであり、少し寂しいものでもあった。
疑問に思わないはずもなく、それが彼女の姪っ子の扱い方とするならば、やはりどこか隔たるものがある。
悲しい現実かもしれない。
蓮の父と母のことが、二人に見えない壁を作っていた。
最初のコメントを投稿しよう!