5人が本棚に入れています
本棚に追加
父の事故以来、精神を病んでしまった母はベッドに寝たきりになっていて、それを面倒見てくれているのが、母の妹夫妻であった。
この現実を見ていたくない。少しでも楽しい事を考えていたい。
そういった理由から、蓮は自らが“お化け屋敷”と呼ぶ、奇妙な住人たちの住んでいる町の外れの大きな古い屋敷に通うようになっていた。
蓮の、唯一の遊び相手である。
そして彼らにとっても蓮は唯一自分たちを認識することができる存在であり、自分たち『化け神』を唯一理解してくれる存在であった。
断たれてはならない、絆――。
「今日はまた随分と早いのぅ、蓮よ」
お化け屋敷の入り口に白く長い髪の、十二単のような艶やかな着物を着た40歳を過ぎたくらいの女が立っていた。名を白鬼姫という。彼女もまた、化け神に部類される存在の一人で、白鬼姫は山の神で、館に住む中では最も古い化け神である。
よって、この老婆がこのお化け屋敷の主ということにもなる。
「早起きに成功したんです。華片は中にいますか?」
冗談めかして言った蓮に白鬼姫は鼻で笑ってみせたが、それでも気品は失われず、動作の一つひとつが優美である。
「聞かずともおるわい。随分と会いたがっておったようじゃ」
蓮は一昨年焼けてなくなってしまったコスモス畑に居た華片とは、とても良い仲だった。
蓮がここに通い始めたのと、華片がお化け屋敷に来た時期が近いというのもある。
いわゆる、転校生同士の二人だ。
しかし、華片だけに会うために来たわけでは、当然ない。
「後で、竜王にも会わせてくれますか」
「あぁ、会わせてやるとも」
いつまでも入り口の自分の前にいられることに少々苛立ちを覚えたのか、白鬼姫は軽く蓮の背中を押してやった。正確には、背負っていたリュックを、だ。
「さぁ、お入りよ。皆お前を待っておるのじゃ。また飽きぬ話をたんと聞かせておくれ」
蓮は押されるがままに、お化け屋敷の中へと足を踏み入れた…。
最初のコメントを投稿しよう!