第七章 相対する麒麟

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典禁「少々お待ち下さいませ」 典禁は茶釜を持つと水桶へと向かった。 水桶には満々と水が貯えられている。 桶の水は山の湧き水で冷たく、京洛の名水として有名な代物であった。 典禁はヒシャクで水を汲むと茶釜に移し、茶釜を火に掛けて席に座った。 典禁「湧き水は冷たいので沸き上がるまで少々時間がかかります。それまで雑談でも楽しみましょう」 極めて従順な態度で接する典禁。 しかし胸中では話を切り出すタイミングを推し量っている。 すると詩鳴は穏やかな口調で典禁の労をねぎらった。 詩鳴「日々政務に追われるご多忙な御身で細やかな御心遣い、誠に痛み入ります」 典禁「いえ、臣下として当然の事で御座います」 典禁は平静を保ちつつ軽く会釈した。 さも忠臣という素振りと姿勢で詩鳴に接している。 すると詩鳴は僅かに鋭い視線を向けた。 詩鳴「ところで典禁殿の生まれは?確か王条政権の折に京洛へ仕えたと聞いていますが」 典禁はドキリと鼓動を高鳴らせた。 しかし表情は涼しいまま全く微動だにしない。 典禁「私は下付(かふ)という村の出身です。下付は王巍の北西に位置する村で御座います」
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