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詩鳴は典禁の素性を探るため質問した。
流星の言葉が胸に引っかかり、一抹の不安を感じていたからである。
しかし典禁は嘘偽りなく返答した。
法信の部下であり、埋伏の毒である事を隠しながら。
そして雅継を慕う気持ちを前面に出しながら。
詩鳴「そうでしたか、辛い思いを受けたのですね」
詩鳴は悲しげな表情を浮かべた。
人物を見抜く目に優れた詩鳴である。
それだけに曇り無き瞳を見て典禁という人物を認識した。
しばし沈黙して向き合う二人。
互いに言葉を発する機会を失い、部屋を静寂が支配している。
すると茶釜から湯が沸騰する音が聞こえてきた。
典禁「湯が沸いたようです」
典禁は椅子から立ち上がるとヒシャクを持ち、茶釜から湯を水差しに移した。
煮えた湯が水差しから温かな湯気を立てている。
そして隻腕ながら典禁は慣れた手つきで茶器を整えた。
典禁「極上の茶葉が手に入りました。どうぞ御覧下さい」
茶葉を器に移して詩鳴に差し出した。
確かに色艶といい香りといい極上の茶葉である。
詩鳴が茶葉を吟味していると、典禁は茶器に湯を注いで温めだした。
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