第七章 相対する麒麟

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中国式茶道の作法である。 典禁は作法通りに数々の工程を踏まえ、ようやく珠玉の一杯を詩鳴に差し出した。 詩鳴「いただきます」 詩鳴は茶を一口すすった。 茶の甘い香りが鼻孔を抜け、なんとも言えぬ清涼感が口内から喉に広がっていく。 詩鳴「美味しい」 思わず甘美の言葉を漏らした。 典禁も茶の美味さに甘美の吐息を漏らしている。 詩鳴「この茶葉はいずこの地で採れた物ですか?」 典禁「我が故郷の下付で採れた物です。あまり知られていませんが、下付は茶の産地として適した土地なのです」 心なしか典禁は誇らしげに答えた。 そして、ふと何かを思い出して表情を曇らせた。 典禁「しかし今では荒れ地となり果て、若者は残らず徴兵に駆り出され、重税により村人は苦しんでいます」 偽りない事実だった。 広大な王巍だが裕福なのは都心部に住む者だけである。 それも星影の一族や貴族、位の高い者ばかりが住んでいた。 地方には重税を課して厳しく取り締まり、交易を行う近隣でさえ重税に喘いでいた。 しかし圧倒的な軍事力の前に為す術もなく、人々は過酷な暮らしを余儀なくされていたのである。
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