第九章 通い合う想い

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それだけに流星は【平時にて乱を忘れず】という教えを心魂に徹する詩鳴に感嘆したのだった。 流星は幕舎を出る間際、ふとある事を思い出した。 そして詩鳴に向き直って問うた。 流星「詩鳴様、一つお伺いして宜しいですか?」 詩鳴「何でしょう?」 珍しく問う流星に詩鳴は意外そうな顔を見せた。 流星「海炎の事です。あの時、詩鳴様は確実に海炎を斬りつけました。なぜ海炎は絶命せず、全く刃傷を負わなかったのですか?」 すると詩鳴は「そういう事か」と言わんばかりに笑みを浮かべた。 詩鳴「フフフッ…そうですか、さすがに流星も気付かなかったようですね」 そう言うと詩鳴は辺りを見回した。 そして流星の持つ羽扇に目を止めた。 詩鳴「その羽扇を貸して下さい」 流星「羽扇をですか?」 流星は不思議そうに羽扇を手渡した。 すると詩鳴は椅子から立ち上がると羽扇を流星に突き付けた。 詩鳴「動かないで下さい」 そう言うと詩鳴は羽扇を高々と掲げた。 当然ながら流星の視線は羽扇に釘付けである。 詩鳴「ハァッ!!」 突然、詩鳴は流星に羽扇を振り下ろした。 左肩から右脇腹へ、海炎と全く同じ軌道に沿ってである。
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