序章 俺と飛竜のラブゲーム

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 古来より、ある人々からは神と崇められ、ある人々からは災いと恐れられた種族。  ――ドラゴン。  注視する必要も無い。  俺の背後で躍動する生命体は、体長が優に一〇メートルを超える化け物。  しかし、竜狩りを至高とかほざく腐れた仕事仲間に言わせると、成竜の全長は最低でも二〇メートルは下らないらしい。  要するに、このとんでもサイズで“幼竜”だ。  笑えない冗談は大概にして欲しい。  【ディレイド】  肉食目・飛竜種。その中でも最凶の部類に属する黒竜で、性質は極めて凶暴。  それ単体で“災厄”と呼ばれる怪物であり、齎すのは破壊と恐怖。襲われた街は、数年に渡って草木一本も生えないそうだ。  戦闘バカの変態共ならいざ知らず、凡人である所の俺には万が一にも勝ち目無し。  脳内の記憶を掘り起こし、何とか突破口の模索を試みたはいいが徒労に終わり、希望は光の速さで俺から遠退いて行った。  思考に時間を割いている間にも詰まりを見せている、怪物ディレイドとの距離。  しかし出口までは未だ遠い。  ざっと見積もって五〇〇メートル位か。  つまり、今必要なのは時間を稼ぐ事。  悩んでる時間なんぞ欠片も無い。  少しの失速は覚悟の上で懐に手を忍ばせ、指先に触れた物を素早く掴み出す。  戻った手に握られているのは、拳大の、一部が平たく突き出た金属製の球体だ。  俗にいう、爆弾。  対人のみならず、対モンスター用にも使える様、独自に改造を施している品だ。  それ相応の材料費が掛かっている為に惜しさはあるが、背に腹は変えられない。  決意を固め、掌中の物体を握り締める。 「消し飛べ!!」  名残惜しさを涙ながらに振り切り、爆弾と一緒に取り出しておいた耳栓を装着。振り向く力をそのまま利用して投擲した。  俺の思いが込められた爆弾は黒竜へと一直線に飛び、直後にその鼻先で炸裂した。  閃光、轟音。  大気が弾け、洞内に颶風が吹き荒れた。
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