序章 俺と飛竜のラブゲーム

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 衝撃波が空中を伝播して背に叩き込まれる。危うく飛ばされそうになった体を、地に足を踏ん張ってどうにか堪えた。  その際に跳ねた小石や骨片がコートの上、更には剥き出しの肌に食い込み、奔った鈍い痛みに思わず顔の筋肉が引き攣る。  耐刃、耐電、耐火と様々な機能を持つ黒コートも衝撃までは対象外だったらしい。  思わず呻くが、今は痛さにぼやいている余裕など皆無。瞬時に意識を切り替え、素早く怪我の有無を確かめ終える。  追撃の気配が途絶えたのを確認してから、俺は足を止めて振り返った。  爆発の影響で天井から幾つもの岩石が落下し、その衝撃で巻き上げられた砂塵によって辺りは完全に埋め尽くされている。  濛々たる砂煙に視線を向け必死に目を凝らすが、黒竜の全貌は杳として知れない。  期待と不安が綯い交ぜになり、じりじりと身を焦がす様な感覚に襲われる。  いつでも逃げられる様に構えながら、五感を研ぎ澄ませ視界が明瞭になるのを待つ。  時間の経過が酷く緩慢だ。極度の緊張下に於いて、自己の時間感覚が歪んでいる為なのか、実際に長時間が過ぎているのかは不明だが、今そんな事はどうでもいい。  不意に塵芥が散開。  その中から姿を現したのは、数カ所に渡って鱗が剥がれ落ち、その下から焼け爛れた肌を露出させるディレイドだった。  粉塵を払い除けたのはディレイドの荒々しい鼻息。  痛みからか怒りからかは判断仕兼ねるが、黒竜はその体躯を打ち震わせている。  その瞳が瞋恚の炎に彩られて見えるのが、俺の思い過ごしである事を切に願う。 「この糞ったれ!!」  悔しさに絶叫。  踵を返し、出口目指して再び馳せる。  とは言えピンチを脱せた訳でもない。  日頃の怠惰な生活が祟って痙攣を始めた大腿筋やらヒラメ筋やらに気力の鞭を振るい、形振り構わず疾駆を続ける。  響く豪快な足音の間隔が短くなった気がするのは、果たして気の所為だろうか。  ……止めよう。考えたら負けだ。  沈下していく思考にブレーキをかけ、生き延びる事だけを念頭に置いて尚も走る。  時折飛来する岩石や爪を、出来る限り体力の浪費を避けた最小限の動作で躱しているものの、そろそろ限界が近い。  切実に休息を訴えてくる肺と脚が、それを如実に表していた。徐々に増す疲労と痛みも、絶望の念に更なる拍車をかける。  だが神は、俺を見捨てはしなかった。
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