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「ねえ、さっき声がしなかった?」
「おかしいわね。交代まではまだ時間があるんだけど」
「もしかして、この病院の霊が騒いでるとか?」
声は女のものだった。
ライトがナースステーションの中を舐めるようになぞっていく。
志乃は息を殺し、声が遠くに行くのを待つ。
「それにしても本当に暗いわね」
「取り壊すのは一週間後、それまでの辛抱よ」
「でも霊安室を見たときは驚いたよね」
え・・・・・・
志乃は耳を立て、内容を聞き取る。
「崩落ってさ、あんな鉄の扉が曲がっちゃうものなんだね」
「違うわよ。あれはどう見ても内側からこじ開けられたものよ」
「じゃあ、霊安室に何かいたのかな?」
「あそこは死体置き場よ。死体以外に何を置くのよ」
「「そりゃもちろん・・・・・・お前だァ!!」」
「バ! バカ! 悪ふざけしないで!」
「怖がってる怖がってる」
「べ、別に怖がってなんか」
「ごめんごめん。でもせっかくこういう場所にきたんだから、お約束でしょ」
「はぁ・・・・・・、ほら行くわよ」
足音が遠のく。
志乃はカウンターから顔だけを出して、後姿を見る。
暗いが、ライトで照らし出されて見えたのは修道服だった。
シスター? どうしてこんな場所にあんな人たちが?
完全に気配が消えたのを確認したあと、志乃は半壊した建物──
廃病院から逃げるように出て行った。
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