序章 悪意から生まれたモノ

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河川敷の下に、志乃の探しモノはいた。   橋の下に張り付き、暗闇と死角で身を隠していた。   生い茂った草を踏みしめる音が聞こえ、それは身を丸める。 「・・・・・・臭うな」   明かり一つ無い河川敷を、そう呟きながら誰かが歩いてくる。 「血ではない・・・・・・」   草の根を掻き分けるわけでもなく、ただ前へと人間が歩いていた。 「肉でもない・・・・・・」   橋の下に張り付いたそれは、上から人間を見下ろす。   すると、人間と目が合った。 怯えていたのは、それの方だった。   本能的に威嚇を開始したそれは、橋の下から河川敷へと落ちる。   牙を鳴らし威嚇するが、人間の方は微動だにしなかった。 「醜い。だが恐怖を持っている。覚えたものか、それとも本能か」   月明かりに照らされ、人間の容姿が露になる。   黒い修道服に身を包んだ白髪の少年が、それをまっすぐに見つめていた。   急にそれは威嚇をやめる。 少年だと判断し、優位と感じえたからか。   それとも本能で危険ではないと察知したからか。 「わかるようだな。お前も私を醜いと感じるか?」   同情・・・・・・ それはゆっくりと一本の足を少年の頬に持っていき、頬を撫でる。   だが棘だらけの足は、少年の頬を切りつけてしまっていた。   赤く温かな血が少年の白い頬を伝い、棘だらけの足に垂れる。 「怖がることはない。私もまだ生き物だ。そしてお前も、まだ生き物だ」   それは足に付着した少年の血を口へと運んだ。   そして・・・・・・ 「苦しみは知恵だ。本能が出るのは無知の証。お前に必要なのは、知識だ」   それの目が燃えるように赤く光を放つ。 「お前の主人は天才だな。だが愚かにも思える」   少年は頬に付いた傷を指で撫でる、すると傷は消えていた。   河川敷の下で、それは神にも等しき者から知恵を授かった。
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