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夏が近づき、衣替えが始まるこの季節。
もちろん桜耀高校でも衣替えが行われた。
そんな一年一組の教室で、指定の夏服を着用して、夏神・歩は教師の話を聞いていた。
肩まで掛かる髪が、下敷きで扇いだ風によってなびく。
席替えによって窓際に移された歩を迎えてくれたのは、照りつける日光だった。
そんな歩の右隣では、教科書を前に立てかけ、教師からの視線を遮断する少年が、すこやかな寝息を立てて居眠りをしていた。
「ねえ陸、怒られるよ」
「ムリ・・・・・・あちゅいから・・・・・・」
寝言なのか、それとも起きているのか?
森崎・陸はノートを枕にして眠る。
「ボクの方が熱いのに・・・・・・」
この教室にはカーテンがない。以前はあったらしいのだが、カーテンを使い教室からの脱出を試みた生徒がいたためにカーテンが没収されていたのだ。
一体誰がそんなお姫様みたいな脱走劇を披露したのだろうか。
もし見つけたら今度は屋上からカーテンでバンジージャンプをしてもらおう。
「おい森崎、そろそろ起きてくれ」
教卓でワイシャツネクタイの社会化教師兼、担任の風杉・透が陸の席を見ていた。
「・・・・・・あと二十九分十四秒・・・・・・」
「それは授業が終わる時間だ」
呆れる風杉。だがそんな教師に物申す女生徒が椅子から立ち上がる。
「先生も教卓の下に置いた桶から足を出してください」
教卓から氷がぶつかる音が聞こえる。
「何を言ってるんだ蔵坂? 俺はただ水虫の足を冷やしているだけだぞ」
蔵坂と呼ばれた女生徒が度の高いメガネで風杉を睨んでいた。
「先ほどから口で説明するだけで黒板に触れてもいないじゃないですか?」
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