126人が本棚に入れています
本棚に追加
それは蔵坂さんの仰るとおりだ。
授業開始からこれまで、風杉先生は一度も立ち上がっていない。
氷同士が擦れあう音、そして桶にコツンコツンと氷が当たる音が教室に響く。
「俺は暑いのダメなんだよ。本当ならクーラーの効いた部屋を借りて授業しようとしたのに、あの教頭が私物化するなとかぬかすから」
文句タラタラに教頭を批判する風杉先生。蔵坂さんは椅子に座り、ため息をついていた。
「もっと真面目にしなさいよね・・・・・・」
そう呟くのが聞こえた。
彼女とは同じ中学だったから性格は知っている。
何でも真面目にやらないと気がすまない子なのだ。
この担任と彼女はミスマッチすぎる。
「まあ誰だって暑いのはいやだろう。俺だってもちろん嫌だ。だが我に秘策アリ」
「「「どんな?」」」
暑さに唸る男子生徒の声に、風杉は目を光らせて机に肘を突き、口を開く。
「校長室の冷房を強奪しよう」
「「「無理無理無理無理無理!!」」」
この教師、目的のためなら手段も選ばないつもりらしい。
「気にするな。あんなタコ校長なんぞ、熱中症で倒れても学校側には問題なしだ」
「「「ひでぇ~」」」
「どうせ校長室でゴルフの練習でもしてるんだろ。そんなにゴルフやりたかったらゴルファーにでもなればいい。ついでに池にはまって二度と出てくるな」
一体この人と校長の間に何が起きたのだろうか・・・・・・
「先生、まずは授業しましょう」
「確かに蔵坂の言うとおりだ。それじゃあ教科書三十八ページ、校長をドラム缶に入れる時のセメントの量を計算せよだが────」
「「「授業しろや!!」」」
生徒の訴えがシンクロした。
最初のコメントを投稿しよう!