軌跡

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筆を出して原稿用紙を広げたが、一向に手がつけられないまま、気づけば分針は始めたときの逆を指していた。 ただの一歩半の距離と向きが違うだけなのに、どうも居心地が悪い。 集中力が散漫する。 視覚に入る、ストーブ、あの席にいる若い男、本棚に並ぶ数々の題名。 聴覚に入る、ストーブの唸る音、本をめくる音、秒針の律動的な音。 普段はほとんど意識しない視聴も、少し環境がかわると意外なものがピックアップされ、フォルティッシモの符号がつく。
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