軌跡

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机に広げた原稿用紙や筆を、そそくさとバッグにしまいこんで立ち上がった、ちょうどその時である。 女性がストーブの隣にある椅子に腰をかけたのが目に入った。 それがあんまりに気品の良いゆるりとしたしぐさだったので、ぐいと心を惹かれた。 釣り針にまんまと食いついた魚のようだ。 僕は大いに期待を含んで、バックを片手につっ立っていることも気に咎めずに、女性の顔を覗き込んだ。 結句に、失望。 騙された。
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