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二年前、私はフリーターで、そうのめり込むほどでなかったレゲエを、何となく崇高し、馴染み難いそういったクラブで、キャッシャーや、好きでもないお酒を作ったり呑んだりするバイトをしていた。
ある夜、それに行くのに、いつものようにギリギリで忙しなくして、
「じゃあ、行ってきます」と、
いうときに、のろのろと母が過ってジョッキを、それも、階段に落とした。
いつものように、一階の冷蔵庫から氷を取って、二階のお膳で、ひとりでビールをつごうとしたのだ。
「のろのろと」とは、そんなこと、出来る人じゃない、一人で、子を育てた人が、のろのろとなんて、病気でない限り、出来ないはずなのだ。
自立しすぎて、自分が病人であると、自覚なんかする気がないし、自分がのろのろとしているなんて、知りたくなかったのだ。
心が、常にアクティブでいるから、体も、本当は健康なんじゃないかと、私は疑っていた。
母だって、そうだったのだ。だから、その瞬間まで、さいならする人だとはわからなかった。
重力に吸い込まれるところを追ってたら、パキンと音がして、ガラスが、階段の真ん中から奥下にかけ、砕けた氷と散らばった。薄暗い中で、それが、キラキラしているように見えた。
‘普通’だったら怒鳴った。わからない、もしかしたら、そのまま素直に罵声を吐き出し、その圧力で飛び出したかもしれない。そんな仲だったような気がする。
何せ、わからないのだ。
思い出なので、徐々にもう、このような嫌な記憶などは、錆びている。
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